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みなさんのおかげです 木梨憲武自伝

発売日: 2024/1/31
著 者: 木梨憲武
出版社: 小学館
ページ数: 319p
ISBN: 978-4-09-389111-0

読了 3時間程度

「とんねるず」の出ていた番組はほとんど見たことがなかった。なんというか、がちゃがちゃしていて、あまり見る気がしなかった。一つだけ覚えている番組がある。たぶん、かなり後半というか、人気が出てかなり経ってからの番組だと思う。

勝手に?芸能人の家に行って、ごはんを食べたりやりたい放題しているような内容だったと思う。「とんねるずのみなさんのおかげでした」の企画だったかな。まあ、何とも見ていてあまり気持ちのいいものではなかった。「とんねるず」と言えば、あのガサガサ感は貴さんが醸し出しているもので、憲さんはどっちかというと止め役のようなもので、貴さんの行動をうまく外れすぎないようにコントロールしている人だと思っていた。しかし、この番組では、憲さんの行動のほうがぶっとんでいた記憶がある。憲さん、一見おとなしそうだけどヤバいんじゃないか…。貴さんは、ガサガサして大暴れしているようだけど、あまりダメージのないような事をしている。それに対して憲さんは、取り返しのつかないような事をしていた記憶がある。大事な物にマジックで落書きしたり、壁を汚したり。

そんな憲さんが自伝を書いて、けっこう評判になっているらしいと聞いたので、ちょっと手に取ってみた。プロローグを読んで、これは面白そうだと思い読んでみた。

今まで知らなかったが、とんねるずとは学年が一緒だった。俗に言う、「タメ」とか「おない」。同じ時代を生きたということで、読んでいると小さい時に見ていたテレビやまわりの景色が同じ。(都市部と地方の田舎の違いがあるが)やっぱり「8時だよ!全員集合」は、あの当時の小学生は絶対見ていたと思う。土曜日の8時が待ち遠しかった。そうそう、我が家もこたつに三世代が揃って見たものだった。あの当時、志村やカトちゃんが画面に出てくるだけでおもしろかった。「ちょっとだけよ~」がなぜおもしろかったのかはわからないが、あの当時は「爆笑」した。本当に「腹をかかえて」笑った。

閑話休題

憲さんは、自分のことを「永遠の小学3年生」と言っているが、本当にそんな感じなのだろう。小学生の時のエピソードには、心温まるものや、憲さんの今につながる骨格のようなものが形成されていったことがわかるものがある。周りの人に好かれていたんだろうなあ。そして、憲さんも周りの人(陣営)が大好きだったのだろう。

サッカー強豪校の帝京高校サッカー部に3年間在籍し、しかも準レギュラーまでいったことには驚いた。なんか、ちょろちょろしている感じだけれどやるときはやれるし、力もエネルギーもある。やっぱりただ者ではない。

とんねるずの番組をあまり見ていなかったので、デビューしてからの話は、すっと入ってこない部分もあったが、少年時代や高校時代、そしてデビューまでの話はともてもよかった。そして何より、家族のことやなるさん(奥様)、貴さんのことを話すときの憲さんは、とても素敵である。

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海賊王に俺はなる 『瀬戸内の海賊』【増補改訂版】

発売日: 2015/10/23
著 者: 山内 譲
出版社: 講談社
ページ数: 320p
ISBN: 978-4-10-603777-1

戦国時代、日本にはいくつもの水軍が存在していた。中でも最強と言われた村上水軍は、あの織田信長を撃退し、豊臣秀吉にも組することなく”自由と海”を愛していた。そんな海のサムライたちを束ねたのが、瀬戸内の海賊大将軍・村上武吉だった-。

上のコピーは2014年に公開された『瀬戸内海賊物語』のキャッチコピーである。

この本は、しっかりとした資料によって瀬戸内の海賊たちの様子を「能島村上氏」を中心にして書かれた海賊達の「伝記」である。

著者によると海賊には四つの顔があるという。 
①略奪者としての海賊
②時の権力に抵抗する海賊
③海域の安全保障者としての海賊
④権力の側に立つ水軍として海賊

海賊としての一般的なイメージは、①の略奪者という者であるが、瀬戸内の海賊達は、主に②~③だったようである。毛利元就らと組んで、織田信長に対抗したり、平常時は、瀬戸内の海域を安全に通るための警護をしたりしたいたそうである。その警護費や通行料が海賊達の資金になっていたのである。

瀬戸内の海賊の中でも、最も最強と言われていたのが、村上武吉率いる能島村上水軍だった。天文5年(1536年)に村上義忠の子として生まれた武吉は、叔父の村上隆重の支援もあり、親族同士の家督争いに勝ち、能島当主となった。

天文24年(1555年)の毛利元就と陶晴賢の厳島の戦いのでは毛利方に加担していたが、元亀2年(1571年)頃には公然と反毛利の姿勢を取ったりもした。その後、毛利氏が織田信長と戦うようになると、村上水軍は毛利方水軍として活躍した。

豊臣秀吉の時代になると、「海賊禁止令」が出され、武吉達は九州に移住させられる。朝鮮出兵では、息子である元吉が活躍した。その後、秀吉亡き後では、石田三成側に付き、徳川家康との戦いで元吉が戦死したそうである。武吉は、慶長9年(1604年)に72歳で没している。元吉の孫の道祖太郎は、後に毛利藩の御船手組頭役となり、再び海で活躍したそうである。

この本には、付録「海賊の世界を歩く」があり、今治から「しまなみ海道」を通っての村上水軍をめぐる旅のプランを示してくれている。ぜひ、時間を取って、めぐってみたいと思っている。

            

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四万十の流れのように生きて死ぬ

発売日: 2021年6月9日
著 者: 小笠原 望
出版社: 清流出版
ページ数: 223p
ISBN: 978-4860295066

読了 2時間30分~3時間

自称、「田舎医者」の小笠原望先生の、最新の本である。小笠原望先生の講演は聴いたことがあったが、はずかしながら著書を読むのは初めてであった。

「どうして、今頃になって、先生の著書を手に取ったのか?」というのは、ちょっとした奇妙なめぐり合わせがあったからだ。そのめぐり合わせとは・・・。

職場の回覧でちょっとした冊子が回ってきた。図書館流通センターだったか、どこかの出版社だったかはっきりとしないが、「図書館発! 47都道府県、本の旅!」という小冊子があって、47の都道府県毎に、司書さん?が選んだ本が5冊ずつ紹介されていた。何気なく高知県を見ていると、坂本龍馬や紀貫之、今年話題になった牧野富太郎関連の本の中に、なんと、この本が紹介されていたのだ。

これは、読んでみなければならないと思い、さっそく読んでみた。

著者の前書きにもあるように、この本は、書下ろしである。時代が前後したり、同じような内容が重複したりしていることもあるが、全体を通してしっかりとした一本の筋が通っている。それは、「医者として、人間をまるごとみようとしている」ことである。それは、気持ち(想い)だけのものではなく、望先生は、患者さんの最期の時に側で看取るだけでなく、葬儀にも出られている。それが特別なこととして書かれているわけではなく、自然な流れの中で当たり前のこととして書かれている。

望先生が、自身のお父さんとのことを書かれているが、本を手に取って読んでもらいたいので、詳しくは書かないが、このお父さんがあって、望さんがあるのだろうと思ったしだいである。

この本にも出てくるが、望先生には、4歳年上の「N先生」という兄がいる。どうして、「N先生」なのかと言えば、お兄さんは、高知県では名の知れた教育者なのである。かなり前のことであるが、N先生が本を出された時には、「あとがき」に望先生が寄稿されていた。そこにこう書かれている。

臨床医を実践されている望先生は、この頃から自分の進む方向を明確に持たれていたのだ。そして、実践されている。上の文が書かれたのは平成2年であり、今から35年近く前のことである。

望先生は、お父さんの影響もあり、川柳をされている。この本にも、要所要所に先生の詠まれた川柳がちりばめられている。兄のN先生も川柳をされており、言葉に巧みなお二人が実家に帰って酒など酌み交わしながら、どんな話をしているのだろうと想像してしまう。お二人の宴席の隅で、ぜひ話を聞いてみたいものである。

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ハヤブサ消防団

テレビのドラマを観た後、原作を読みたくなったので読んでみたというのが正直なところである。テレビドラマの配役が良かったからなのか、読み進めていくと登場人物と役者さんがリンクすることすること。中山田役の山本耕史は原作を超えていたかも。

まず、田舎の消防団を舞台にしたというのが、おもしろいと思った。田舎の様々なしがらみを、うっとうしく描くのではなく、その良さの部分もきちっと描いてるのがうれしかった。田舎で起こった放火事件をハヤブサ消防団を中心に解決していくというストーリーで、原作とドラマでは犯人が違っているということもあり、興味深く読み進めることができた。(はっきり言って、ストーリーが変わるほどの違いではなかったが)

『農道のポルシェといわれるSUBARU製の軽トラ』というのが妙に懐かしかった。池井戸さんの文章には、時として非常に共感しノスタルジックに浸れる表現が出てくる。この農道のポルシェの話も、かつての「スバルサンバー」がリアエンジンリア駆動(RR)と四輪独立懸架のサスペンションを搭載していたからである。また、スーパーチャージャーも装備していたらしい。今ではダイハツのOEMになってしまったので、農道のポルシェは6代目までだそうだ。

閑話休題

田舎に住んでいる自分が言うのもへんであるが、田舎のリアルがけっこう忠実に描かれていたように思う。銀行物とは違う、池井戸ミステリーも楽しかった。

おまけ!

この写真は、わたしの先輩の入っている消防団に配られた「消防団募集中」のポスターである。(もう一種類別パターンがある。)
で、「消防団って?」知っているようで知らない「消防団」という組織についてちょっと復習をしてみようと思う。

まずは、このポスターにある「総務省消防局」に行ってみる。そして、消防団オフィシャルウェブサイトへ。

消防団は市町村の非常備の消防機関であり、その構成員である消防団員は他の本業を持ちながら、権限と責任を有する非常勤特別職の地方公務員として、「自らの地域は自ら守る」という精神に基づき、消防防災活動を行っています。

そこには、上記のように書かれてある。消防署の職員の方と一緒に消防防災活動を行う。この事については一般的な認識と言えよう。ここで気になるのは「非常勤特別職の地方公務員」というくだりではないだろうか。
地方公務員法第 3 条第 3 項第3号の特別職非常勤職員によると、「専門的な知識経験等に基づき助言、調査及び診断等の事務を行う者」とある。地方公務員であるので、手当や報酬、補償、退職金などもある。もちろん、責務の重さや仕事内容と比べると十分ではないと思われるが・・・・。これ以上書かないが、消防団に興味のある方はぜひ消防団オフィシャルサイトへ行ってみてほしい。

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コンビニ人間 (文庫版)

発売日: 2018年9月4日
著者: 村田 沙耶香
出版社: 文春文庫
ページ数: 168p
ISBN: 978-4167911300

読了 1時間30分~2時間

「コンビニ店員として生まれる前のことは、どこかおぼろげで、鮮明には思い出せない。」

第155回芥川賞受賞作であるこの物語の書評の中には、「どうして芥川賞をとったのか、よさがわからない」というものがある。一介の読書好きには、芥川賞に相応しいかどうかはわからないが、よさはわかる。正直、よさがわからない人がいることが、わからない。

私自身は、今、巨大図書館で働いている。もちろん臨時職員である。時間を守り、職場や利用者の方に迷惑をかけないように体調を管理し、清潔さを保つように心がけている。それは、当たり前のことである。そして、巨大な図書館のほんの一部であるが、自分の働きが少しでも役にたっていると考えると、少しの充足感が味わえる。ある意味、それは会社勤めでも同じことなのではないだろうか。

彼女は、それがコンビニだったのだ。死語になってしまったが、「会社人間」などという言葉もあったではないか。生活の中心がコンビニであり、自分が生き生きと活動できる場所が唯一コンビニなのだ。

彼女の生活は、多少極端でもある。しかし、彼女の生活は、自分たちの生活の延長上にあるともいえる。

いろいろな意味で共感できる部分があった。

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スクリプターはストリッパーではありません

発売日: 2013年01月
著者/編集: 白鳥あかね
出版社: 国書刊行会
ページ数: 313p
ISBN: 978-4-336-05682-5

読了 8~10時間

国書刊行会の50周年記念小冊子「私が選ぶ国書刊行会の3冊」という本の中で紹介されていて、目に留まった。誰が紹介していたかは忘れたが、本との出会いとはこんなものかも。

スクリプターという仕事は知らなかった。本書よりスクリプターについて説明している部分から引用してみる。

「1993年、トーキー(同時録音)が現場に導入され、撮影済みのフィルムと録音された音とを合わせなければならなくなり、編集作業が大変複雑になって来ました。そのため撮影現場では、ワンカット毎に克明なメモをとるようになったのです。このメモはスクリプトと呼ばれ、メモを記す人、つまり記録をとる人をスクリプターと呼ぶようになりました。」
「スクリプトには、カットナンバーをはじめ、俳優の動きやセリフ、撮影日、撮影場所,同録かサイレントか、カメラサイズ、カメラワーク、音の処理、撮影タイム、OK・NGの選別等、そのワンカットに関するあらゆる情報が記入されます。
とりわけ重要なのは、監督の演出意図をどの様な表現方法を用いて書き表すかと云うことです。」
(本文P12~13より引用)

本文は、聞き手である高崎俊夫さんが白鳥さんにインタビューする形式で進んでいく。聞き手が上手で、しかも知識が豊富であるので、白鳥さんの話がはずむことはずむこと・・・。

日本の激動の映画史のリアルを覗けるので、(小津 安二郎以降)昭和生まれは必読かもしれない。スクリプターというのは、常に監督の傍にいるということで、歴代の監督についてのエピソードトークがすごい。(すばらしい)

例えば神代 辰巳(くましろ たつみ)監督については、「恋人たちは濡れた」の撮影シーンで、海の中に消えていくシーンでなかなかカットをかけずに、中川梨絵が溺死しそうになったり、「濡れた欲情 特出し21人」で、本物の上山田温泉のロック座の人を使って撮影をしたりと、ロマンポルノの帝王たるエピソードが語られている。

刺激的なタイトルは、この映画の撮影の時に起こったことに由来している。著者がちょっとはめを外しすぎた?

読了後、何本か観たい映画があった。「人魚伝説」は、どこかのサブスクで観られるのだろうか。

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ニコラ・テスラ 秘密の告白

発売日: 2013年01月
著者/編集: ニコラ・テスラ, 宮本寿代
出版社: 成甲書房
ページ数: 237p
ISBN: 9784880862972

読了 8~10時間

1943年1月7日の深夜、マンハッタンのニューヨーカー・ホテル。身寄りもなくこのホテルの一室にひっそりと暮らす86歳の老人が、その波乱万丈の生涯に終止符を打った。人生の最期を看取る者など誰もいない、あまりにも孤独な死であった。翌朝メイドによって老人の亡骸が発見されると、知人たちの手によって葬儀が催されることになった。葬列は厳冬のマジソン街を葬祭場に向かって粛々と進んでいった。ところがちょうどその頃、老人が息をひきとったホテルの部屋では、その静かな死とは対照的に慌ただしい事態が巻き起こっていた。葬列がホテルを出るのを待っていたかのように、数名のFBIの捜査官たちがこの部屋に押し入ったのである。
               (「ニコラ・テスラ 秘密の告白」解説より引用)

すらっと読めないと感じた単行本は、まず、「解説」から読むことにしている。この引用部分を見ても、ニコラ・テスラの凄さ、生き様が見て取れるようだ。解説によるとこの本はテスラの残した著作の2冊から成るという。第一部として収録されているのは、「My Inventions:The Autobiography of Nikola Tesra(1919刊)」第二部として収録されているのは、「The Probrem of Increasing Human Energy(1900年刊)である。

第一部は、自伝と銘打ってあるだけあって、比較的読みやすい。テスラの幼少期の様子や、家族のことが書かれていて、いかにして天才が生まれたかを垣間見ることができる。彼は、自分の考えた発明や発見を頭の中で具体化し、それを頭の中で装置を組み立て実験をする。そして、実際に実験をした時には、頭の中で組み立て考察したたものと同じ結果が得られたそうである。正に、天才である。テスラの発明や、無線システムについても触れられている。

打って変わって、第二部は、テスラの技術的な話が多く、また、何度も同じような話が出てきて読みこなすには結構時間がかかってしまう。ここで、投げ出してしまう人も多いのではないか。自身もどれだけ理解できているかわからないが、とにかく最後まで読み切ってみた。それは、テスラを敬愛しているからである。ある程度、テスラの業績や人となりを知っていたから読み進めることができたのではないかと思う。

エジソンとの「電流戦争」。直流電流と交流電流の戦いとも言える。今日の発電・送電システムはほぼ交流を採用しており、テスラのシステムの勝利と言える。直流は、送電による電力ロスに耐えられなかった。簡単に電圧を変えられる交流電流は、電圧を上げて送電することにより、ロスを減らすことができたのである。送電線の電気抵抗Rとして、送電損失 P’=R・I2、電圧を10倍にすれば電流 I=P/V は10分の1、損失は100分の1となる。

「世界システム」「フリーエネルギー」などの言葉は、どうやら、「無線電送技術」のことを指しているようで、コンセント無しで、世界のどこにいても電気が利用できるというのはすばらしい発想であり、実際に何度が実験も行われていた。ワイヤレス電力伝送は、「テスラコイル」の原理の一つの応用であると考えても良いと言われていることから、彼の考えたものが何十年も経って、花開いているともいえる。

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冒険の書 AI時代のアンラーニング

孫 泰蔵 著
出版社 ‏ : ‎ 日経BP (2023/2/16)
発売日 ‏ : ‎ 2023/2/16
単行本 ‏ : ‎ 368ページ
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4296000777
寸法 ‏ : ‎ 21 x 14.8 x 2.2 cm

読了 6~7時間

著者はガンホー(パズドラの会社)の創業者で、あのソフトバンクグループのCEO兼社長の孫正義さんの弟。一応、教育現場に40年近く携わってきた身としては、「私たちはなぜ勉強しなきゃいけないの?」「好きなことだけしてちゃダメですか?」こんなキャッチコピーがあれば、どうしても読んでみたくなる。

結論から言うと、これらの問いに、明確な答えは出していないと思う。あくまで「冒険の書」であり、これから冒険に出発する者のための準備の書と言える。学制発布以来大きな改革のない学校制度は、それこそ様々なところで疲弊し問題も山積している言える。思い切って変えることが必要かもしれない。では、どう変えていくのか。おぼろげながらのイメージはあるが、具体的な姿は見えない。それこそが、作者の意図した部分ではないだろうか。

ただ、東大卒の滅茶苦茶がんばってきた苦労人のエリート社長さんに「学校で勉強なんてしなくてもいいよ、好きなことをやったらいいんだよ」と言われても、ちょっとそれをそのまま鵜呑みにはできない気がする。

この本の一押しは、巻末に付いているブックリストではないだろうか。これこそが、この本の真骨頂であると思う。これから「どう生きるか」という人生の冒険に出発する者にとっての、正しく冒険の書たちである。ブックリストの中には、読んだことのある本も数冊あるが、はずかしながら存在すら知らなかった本もあった。簡単な解説が添えられているので、気になる本をぜひ読んでみたいと思う。

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三千円の使いかた

原田ひ香 著
初版刊行日2021/8/20
判型文庫判
ページ数352ページ
定価770円(10%税込)
ISBNコードISBN978-4-12-207100-1

読了 3時間~4時間

 すっと読めて、何か得したような気持ちになる本である。6章構成で、1章が30分ほどで読めるので気軽に読み始めることができる。

 お金にまつわるちょっと難しい話を、家族の様々な人の立場からやさしくエピソードトークのように語ってくれるので、飽きずに読み進めることができた。

 御厨(みくりや)家の中で、一番かっこいいのは、おばあちゃんの琴子だ。73歳にして再就職をし、若い男の友達もいる。お金に関しても、お金の使い方に関してもしっかりとした自分の考えを持っている。ただ、若い友達の小森安生に対する説教はあまりピンとこなかったし、イメージしていた琴子おばあちゃんが果たしてそんなこと言うだろうかと感じた。

 今年の一月に、フジテレビ系列でドラマ化されて放送されたらしい。気になってキャストを見てみると、琴子おばあちゃんは中尾ミエ・・・・。なんか違う。で、アンミカ?誰の役?黒船スーコ?ああ、ファイナンシャルプランナーだったかな。街絵さんはいい感じ。

ドラマ 三千円の使い方

ドラマもぜひ、見てみようと思う。

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ボタニカ

ボタニカ
朝井まかて 著
出版社 ‏ : ‎ 祥伝社 (2022/1/12)
発売日 ‏ : ‎ 2022/1/12
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本 ‏ : ‎ 494ページ
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4396636173
寸法 ‏ : ‎ 19.4 x 13.1 x 3.1 cm

読了時間 7~8時間

 うーん、最後まで読んだけれど、最後まで富太郎さんには共感できなかった。著者のまかてさんは、膨大な資料や論文を見られてある程度史実に沿って書かれていると思う。リアル牧野に近いのかもしれないが、やはり、何というか、自分が凡人過ぎるのか、感動も共感もあまりなかった。

 読み始めた時に、NHKの朝ドラが始まっていたので、ボタニカの主人公は当然、神木隆之介だった。初めのほうは、彼にイメージを重ねながら読んでいたが、だんだん、神木隆之介では、どうにもならなくなってきた。饒舌で行動力があり、恐ろしいほどの自尊心を持ち、人を巧みに利用しながら自分のやりたいことを実現していく。確かにある意味すごい人物だが、共感や尊敬の念は持てなかった。彼の業績はすごいだろうが、自分自身が草花の分類や生育にあまり興味を持っていないこともあるかもしれない。作者のまかてさんが、どのような牧野像を描きたかったのか聞きたいものである。

 彼の自叙伝では、最初の妻である猶(なお)のことは、触れられてない。地元の高知でも、スエコザザにまつわる、最愛の妻「寿衛子」のことは有名であるが、猶のことは、ボタニカで初めて知った人も多かったのではないか。(後述する、『草を褥に 小説牧野富太郎』大原富枝 著を読んでいなければ)

 借金生活での人生最大の危機を救ってくれたのは、資産家の池長孟(いけながはじめ)であり、標本30万点を3万円で買い取り、本人に寄贈するという。大正15年頃の3万円と言えば、MUFJ お金の育て方によると、4000倍ほどなので、現在では1億2千万円になる。こんな奇特な方とも、仲違いをしたりする。

 彼自身の自叙伝は読む気にはならないが、地元の作家でもある大原富枝さんの『草を褥に 小説牧野富太郎』は読んでみたいと思っている。