ユーチューバー
村上 龍ムラカミ リュウ(著/文)
発行:幻冬舎
四六判
定価 1,600円+税
ISBN978-4-344-04102-8
書店発売日2023年3月29日
読了時間 2~3時間
タイトルに惹かれて思わず手に取ってみた。村上龍と言えば、自分にとっては、『限りなく透明に近いブルー』ではなく、「13歳のハローワーク」なのである。仕事柄、どれだけお世話になったか。さて、本題に。
なんか、不思議な小説である。4つの短編から成っているが、それぞれ話者が違う。
第1章は「世界一もてない男」と自称する、矢崎に憧れているユーチューバー
第2章も「世界一もてない男」と自称する、矢崎に憧れているユーチューバー
第3章は、三十代か四十代か五十代の恋人の女性
第4章は、村上龍氏の分身であると思われる、有名作家である矢崎健介
これは、この長編小説?が、いろいろな雑誌で掲載された短編の集合体だからである。
1章での、有名作家の女性遍歴を淡々と語る部分はおもしろかった。そんな女、いるかもしれないな、と思いつつ楽しめた。特に印象に残っているのは、妻を寝取られた夫が、妻の愛人を部屋に招き入れる部分。自分は、そんな経験はないが、実際、ああいう場面に出くわしたら、きっと、その夫と同じような態度で同じ行動をするのではないかと思った。みょうにリアルなのだ。この部分は少なくとも体験に基づいているような気がする。
全編を通しての、豊富な知識の吐露の部分やうんちく的なものには、食傷気味になってしまったが、それは、有名作家と過ごしだ時代が少し違うからではないかと思う。ドンピシャの人ならきっとうなずきながら読めるかもしれない。
ライオンの子殺しの話は実話らしいが、それで、雌ライオンが発情するのかはわからないが、子育て中は、排卵が抑制されるので当然妊娠はしない。子どもが亡くなってホルモンバランスが正常に戻ると、また妊娠する準備ができる。まあ、村上流に言えば、「発情する」になるのかも。最近の研究では、雄ライオンに子殺しをさせないために、複数の雄ライオンと交尾をし、父親が誰だか分からなくする場合もあることがわかっている。実際、子どもライオンは一匹も殺されなかったそうだ。
この小説を読んだ後、それこそユーチューブでイタリア映画の「にがい米」の検索件数が上がりそうな気がする。「コインロッカーベイビーズ」をもう一度読み返してみようかと思っている。