エゴイスト
高山 真 著
定価594円(税込)
発売日2022.08.05
判型/頁文庫判/192頁
ISBN9784094071757
読了 2~3時間
2023年春に映画化された。出演は鈴木亮平、宮沢氷魚。文庫版のあとがきは、鈴木亮平が書いている。
鈴木亮平がゲイの映画に出るという事で話題になった。映画も観たいと思ったが、やはり原作を読んでみたいという事で。そして、文庫版には、鈴木亮平が寄稿しているということで、迷わず文庫本を選択した。
「エゴイスト」という言葉を広辞苑で調べてみると、「利己主義者」とあり、Wikipediaでは、「利己主義者のこと。他人のこうむる不利益を省みず、自らの利益だけを求めて行動する人のこと。フランスの社会学者トクヴィルによると、個人主義者とは厳密に区別される。」とある。物語と、「エゴイスト」というタイトルがどうからんでくるだろうか。
長年教育関連でご飯を食べさせてもらった身としては、冒頭からの「いじめ」の描写は読んでいて苦しくなって来た。作者の実話であることも知っていたから尚更である。
閑話休題
自殺することを決めた彼を生き抜かせた衝動は何だったのだろう。母の死をきっかけに、今までの自分を否定することで新たに生まれ変わったということなのだろうか。何となくわかるが、それが何なのかは、文章を読んでもはっきりとはわからない。それがわかれば、多くの人の生き抜くヒントになるような気がする。
男性の恋愛については、全く読んでいて違和感がなかった。むしろ、自然すぎるくらいの表現であり、この物語の主題が別のところにあるからだろう。
主人公の恋人が亡くなったあと、残された彼の母親を見守り援助し介護していくことは、主人公のエゴと言えるのだろうか。14歳で止まってしまった、主人公の母との物語を続け完結させることが、自分でも気づかない本当の目的だったとしても・・・。
全体を通して少し悲しく、辛い物語であるが、読み終わった後の気持ちよさのある物語であった。
鈴木亮平のあとがきは、あまりにも期待しすぎていたのかもしれないが、少し思っていたのと違っていた。彼なら、もっと、作者が憑依したような文章を書いていると思っていたからだ。一人称じゃなかったからかな。
主人公(作者?)の心の支えになった本がに2冊あった。一つは三島由紀夫の「沈める滝」であり、もう一つはボールドウィンの「ジョヴァンニの部屋」である。沈める滝ははるか昔に読んだ記憶があるが、ほとんど内容は忘れてしまっている。ボールドウィンの作品は読んだことがない。この機会に二つとも読んでみよう思っている。